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那覇地方裁判所 昭和63年(ワ)378号 判決

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金二億円及びこれに対する昭和六二年九月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五二年一〇月ころ、被告に対し、別紙物件目録一及び二記載の各土地(以下、「本件各土地」という。)を、弁済が遅れていた消費貸借契約に基づく債務の担保として差し入れる旨約し、その趣旨に副う登記手続きをするため、被告に白紙委任状を交付したところ、被告は、右委任の趣旨を超えて右白紙委任状を利用し、本件各土地について、いずれも別紙登記目録記載のとおりの売買を原因とする各所有権移転登記(以下、「本件各登記」という。)を経由した。

2  原告は、後日、右事実を知り、被告の意図を問いただしたところ、被告は、本件各土地を代物弁済により譲り受けた旨主張したので、原告は、昭和五五年二月二一日、被告を相手方として、本件各土地について所有権に基づく本件各登記の抹消登記手続請求訴訟(以下、「前訴」という。)を提起した。

3  原告は、前訴において、第一審、控訴審、上告審のいずれにおいても敗訴したが、その経過は次のとおりである。

(一) 第一審

那覇地方裁判所昭和五五年(ワ)第八一号

昭和五八年八月三一日判決言渡 請求棄却

(二) 控訴審

福岡高等裁判所那覇支部昭和五八年(ネ)第四八号

昭和六一年一二月二六日判決言渡控訴棄却

(三) 上告審

昭和六二年(オ)第二八二号

昭和六二年九月四日判決言渡 上告棄却

4  (一) 原告は、本件各登記の趣旨について税務署より調査を受けた際、譲渡担保を目的とするものである旨説明し、被告も、税務署の反面調査に対し、右の目的を肯定したため、原告につき譲渡所得は発生しないものとして課税処分を受けていない。

(二) 原告は、前訴において、右(一)の事実を主張したが、被告は、前訴控訴審における本人尋問において、税務署から本件各登記の趣旨についての反面調査を受けたことがない旨の虚偽の陳述をした。

5  右虚偽陳述が裁判所の判断を誤らせた結果、原告は、前訴において敗訴し、本件各土地の所有権を喪失するという損害を被ったが、本件各土地の前訴上告審確定時における価額は、金五億六二〇〇万円(坪当たり金四〇万円)を下らない。

6  (一)前訴の訴訟物は本件各登記の抹消登記手続請求権であり、理由中で判断された本件各土地の所有権の存否については既判力を有しないので、本訴請求は、前訴の確定判決により何ら拘束を受けるものではない。

(二) 原告は、福岡高等裁判所那覇支部に対し、被告の前訴における虚偽陳述に対する過料の制裁を求める申立てをし、右事件は現在同支部に係属中である。

しかしながら、本件では、課税上の職務慣例に照らし、被告が税務当局に対して本件各登記の趣旨が実質的に譲渡担保であった旨認めたことは容易に推認することができ、その立証も容易であるから、民訴法四二〇条二項所定の過料の裁判の確定を待たずに、原告は、本件各登記に関して税務調査をした税務職員に対する証人尋問等の立証により前訴における被告の虚偽陳述に対する不法行為責任を追求できるものと解すべきである。

(三) 右のとおりに解しても、仮に、審理の結果、被告の不法行為が認められない場合には、原告の請求は棄却されるのであるから、結局、既判力制度を動揺させる結果にはならない。

7  よって、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、右金五億六二〇〇万円のうち金二億円及びこれに対する前訴上告審判決の確定した日である昭和六二年九月五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、被告が本件各登記を経由した事実は認め、その余の事実は否認する。

2  同2のうち、原告が前訴を提起した事実は認め、その余の事実は否認する。

3  同3の事実は認める。

4  (一) 同4(一)のうち、原告が本件各登記の趣旨について税務署の調査を受けた際に譲渡担保を目的とするものである旨説明した事実及び原告につき譲渡所得が発生しないものとして課税処分を受けていない事実は知らず、その余の事実は否認する。

(二) 同4(二)のうち、被告が、前訴控訴審における本人尋問において税務署から本件各登記の趣旨についての反面調査を受けたことはない旨の陳述をした事実は認め、その余の事実は否認する。

5  同5の事実は否認する。

6  同6の(一)ないし(三)の各主張は争う。

本訴請求は、既に確定した判決に対して不服を申し立てるものであるから、前訴につき再審事由が存しない限り棄却されるべきである。

第三  証拠〈省略〉

理由

一  被告が本件各土地につき本件各登記を経由したため、原告が被告に対して本件各登記の抹消登記手続を求める前訴を提起したこと及び請求原因3に記載のとおり前訴における原告敗訴の判決が確定したことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  ところで、原告の本訴請求は、要するに、前訴における本人尋問で被告が虚偽の陳述をなし、これに基づく誤った判決が下され、原告から被告に対する本件各登記の抹消登記手続請求権が否定されて、原告の本件各土地所有権が侵害されたとの事実を前提として、被告に対し、右虚偽陳述を理由とする不法行為に基づく損害賠償を請求するものである。

三  しかしながら、民訴法は、三審制度を採用して当該訴訟における訴訟物につき当事者双方に十分な攻撃防御を尽くす機会を与えるとともに、その反面として、当該訴訟において判決が確定した場合には、その判断を既判力をもって尊重すべきものとし、確定判決に対する再審について厳格な要件を課している。

したがって、右のような法の趣旨と前記一に認定の前訴の経緯に鑑みれば、本訴請求のような訴えを無制限に許容すると、確定判決により既に解決ずみの紛争が、訴訟物を不法行為に基づく損害賠償請求権に変えることにより、際限なく蒸し返されることになり、既判力制度の趣旨を実質的に没却することになるものというべきである。それゆえ、このような不当な結果を生ぜしめないためには、本訴請求のような訴えは、本人尋問で虚偽の陳述をなした者につき過料の裁判が確定する等公序良俗に違反する事実を明白かつ容易に認めうるような再審に関する民訴法四二〇条二項所定の事由ないしはこれに準ずる事由が存する場合に限って、許容されうるものと解するのが相当である。

四  ところが、被告につき未だ過料の裁判が確定していないことは原告の自認するところである。また、原告が主張するような、一般的な課税上の職務慣例を立証したり、本件各登記に関して税務調査をした税務職員を証人として尋問したりすることにより、被告の前訴における虚偽の陳述が判明するような場合は、前記の本訴が許容される要件を充足するものとは解されない(なお、原告は、審理の結果、被告の不法行為が認められない場合には、原告の請求は棄却されるのであるから、結局、既判力制度を動揺させる結果にはならない旨主張するが、被告が、確定判決により既に解決ずみの紛争を蒸し返され、応訴を余儀なくされること自体が、既判力制度の趣旨を実質的に没却することになるものであるから、原告の右主張は理由がない。)。

そうすると、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく失当というべきである。

五  よって、原告の本訴請求は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上繁規 裁判官 竹中邦夫 裁判官 畑 一郎)

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